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近藤 誠さん

今回は44期卒業の高橋政行さんにお願いして、29期生卒業の近藤誠さんをインタビューしていただきました。近藤さんは、現在、司法書士として国立市に自ら事務所を開いて活躍しておられます。一般企業の法務部でサラリーマンとして勤務した後に、一念発起し司法書士試験に挑戦し合格。最近では小説『新米司法書士・はるかの事件ファイル』(自由国民社)を執筆・出版されるなど、非常にユニークな経歴をお持ちと聞いております。では、高橋さんのインタビューをご覧ください。

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近藤 誠・プロフィール

1987年  3月 佼成学園高等学校卒業
1992年  3月 明治大学法学部法律学科卒業
1992年  4月 セイコー電子工業株式会社入社(法務部勤務)
1995年  5月 セイコー電子工業株式会社退社
1996年 10月 司法書士試験合格
1997年  4月 司法書士登録、開業
2004年  3月 一橋大学大学院国際企業戦略研究科
経営法務コース修士課程修了(経営法修士)

司法書士の仕事の大変さ

司法書士の仕事は、主に不動産や会社の登記です。土地や建物などの不動産を買ったときには、登記をすることによって自分が持ち主であることを主張することができるようになります。たとえば、AさんがBさんとCさんに二重に不動産を売ったとします。その時に、自分が持ち主であることを主張できるのは、先にお金を払った方ではなく、先に登記をした方なのです。このように、登記は早い者勝ちの世界ですので、スピードが非常に重要です。私の仕事が30分遅れたことで、お客様の権利が失われる可能性があるのですから、常にスピード感を意識しながら仕事をしています。

また、司法書士の仕事はスピードだけではなく、厳密な正確さも求められます。たとえば、作成した書面にたった1字タイプミスがあったとしたら、どうでしょう。銀行のローンの登記に「4,000万円」と書くべきところを「万」が抜けて「4,000円」と打ち間違えたまま、書面を提出されたら、どうなると思いますか?

銀行は、貸したローンが返済されなければ、不動産を強制的に売却して回収するのですが、売却代金から4,000万円回収できるはずなのに、1文字の打ち間違えが原因で4000円しか回収できないことになるわけです。銀行は多大な損害を被りますから、間違えた司法書士は差額の39,996,000円の損害賠償を請求されることにもなりかねません。司法書士の仕事は、このように非常に神経を使う仕事なんです。ですから、完成した書類は、一文字一文字をシャープペンシルでつついてチェックしながら、絶対に間違いがないことを何度も確認していきます。

司法書士は人の不安を安心に変える仕事

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私の事務所では「お客様に安心を提供すること」を使命としています。

司法書士は「暮らしの法律家」といって、住宅ローン、相続、不動産の売買、離婚、借金などのように、ごく普通の生活をしていても避けて通れない法律上の手続きのお手伝いをする仕事です。自分ではどうしようもなくなって、わたしの事務所を訪れるとき、多くのお客様は不安な気持ちでいっぱいです。

たとえば相続の場合を考えてみましょう。大切な家族が亡くなった悲しみの中で、遺族は必要な手続きを自分で進めなければなりません。不動産の名義変更、預貯金の払い戻し、相続税の申告などは非常に難しい手続きですし、期限が定められている手続きもあります。それを、全て自分で調べて対応していくのは非常に難しいことです。そのために、お客様に一連の手続きとして何をすべきか、不安を安心に変えていくようにお手伝いをさせて頂いています。

司法書士としてどのようにありたいか

私がまだサラリーマンの時代に、ある先輩が「弁護士は争いの中に入っていく『戦争産業』で、司法書士は争いにならないようにする『平和産業』なのだ」と、言われたことがありました。本当は、必ずしもそんな単純な区別はできないのですが、司法書士の仕事は私の性分にもあっているように思います。忙しいときには朝4時から夜中の12時まで仕事をすることなど、大変なことも多いですが、やりがいのある仕事です。体調を崩したり風邪をひくと最初に相談をする近所のお医者さんをホームドクターというように、何か問題が起きた時に、気軽に声をかけてもらえる身近なホームローヤーでありたいと私は思っています。

また、破産のような債務整理の手続きについても、ただ法律に基づく手続きを済ませれば良いわけではありません。今後も収入の範囲で生活をしてお金を使いすぎないように、生活の改善を含めてその人の問題を見ていかなければ、同じ事を繰り返す可能性があります。相続の問題や遺言については、家族のあり方もふまえて考えた方が良いこともあります。そんな人の心の問題にもしっかりと向き合えるようなホームローヤーを目指したいですね。

司法書士になった動機

私は司法書士になる前に、世界的に有名な時計を作っている企業に入り、法務部で契約書の作成やチェック、訴訟や登記などの対応をしました。それらの業務を通じて、弁護士、税理士、司法書士といった数多くの専門家と接する機会がありました。法務部の仕事はおもしろかったのですが「専門家の言葉を話せるアマチュア」という位置づけでしかないように思えてきたのです。もっと、専門性の高い本物のプロと呼ばれる仕事をしてみたい。それが司法書士になった大きな動機です。

高校時代の思い出

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いまでも鮮明に覚えている出来事があります。たしか古文の授業の時だったのですが、教科書の中に文庫本を入れて授業中に読んでいたのを先生に見つかってしまったのです。この頃は、本当に活字に飢えているような状態で、起きている間はとにかくずっと本を読んでいました。当然のことながら「近藤!何を読んでるんだ!」と先生に一喝されましたが、本のタイトルを言ったら、なんと先生は「その本なら読んでいて構わない」と言って下さったんです。当時は、助かった、ラッキーといった程度にしか考えていませんでした。でも、僕が何よりも大事にしていた「読書」を肯定的にとらえて下さった先生がいたからこそ、今の小説を書く自分があるのかもしれません。もちろん、しっかり準備をして授業に臨まれていた先生には悪いことをしたなあと思っています。だって、自分の好きな本を勝手に読んでるなんて、授業をボイコットしているようなものじゃないですか(笑)。

今振り返れば、いままでに一番本を読んでいたのは「高校時代」じゃないかな。そんなきに、自由にやらせてくれたのが母校でした。

また、これも印象深い出来事なのですが、現代国語の先生がとても難しい課題のレポートを要求したことがありました。クラスの誰も及第点をとれずに、合格点をもらえるまで放課後も残って、暗くなってもなかなか家に帰れませんでした。生徒からは不満が出ていましたし、わたしも当時は変な先生だなあ、と思っていました。でもいま思うと、あれは学問の世界を垣間見た初めての経験であったように思います。義務教育までの単なる暗記とは違う、自分で真剣に考えて何かを生み出すというアカデミックな学問の世界を少しだけ経験させてくれた先生には感謝しています。そのきっかけがあったからとは言わないまでも、結局私は大学院の修士課程まで卒業することになりました。

生徒が自分で学ぶ自由を与え、見守ってくれたこと。そして、新しい学問の世界を垣間見させてくれたこと、佼成学園はそんな経験のできる学校だったと思います。

司法書士の書く本?

今度、架空の女子大生司法書士を主人公にした小説を出版することになりました。前にも言ったとおり、司法書士は「暮らしの法律家」といって、市民のそばで仕事をしているとても身近な存在です。でも、残念ながら司法書士の仕事は、あまり知られていません。もっと多くの方に司法書士のことを知ってもらいたいということが本を出そうと思った理由です。

また、司法書士という仕事に興味をもった学生が書店に行っても、書棚には司法書士試験対策の本しか並んでいません。司法書士という仕事をよく知っていただいたうえで、司法書士試験に挑戦してもらいたいということも大きな理由です。

今の教育について

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今の社会は多様化が進み、誰でも何でも自由にできるようになりました。その半面、あまりの選択肢の多さに、自分が何をすべきかがわらからずに、立ちすくんでしまう子どもがいます。昔は、まわりに働く大人がいました。運転手さん、八百屋さん、学校の先生、身近なところに大人の「仕事」を感じる機会があったと思います。しかし、今はサラリーマン家庭が増えて、お父さんが働いていることは知っているけれど、会社で何をしているかは知らない。このように社会がブラックボックスのようになることで、子どもが自分の将来像を描きにくい社会になってしまったように思います。

目標は何でもいいんです。こんな大人になりたい、といった具体的なイメージをもてるような機会が今あれば、もっと生徒も頑張れるのではないでしょうか。

サラリーマンの頃に「目標をたてないことは、失敗する目標をたてることと一緒だ」と、先輩に言われたことがあります。実際にその目標が達成出来たか出来なかったかは、あまり関係ないんです。目標に向けて努力することが自分を成長させるんだと思うんです。

大人になんかになりたくない、といった歌謡曲の歌詞があったように思いますが、大人になることは決してつまらない退屈なことなんかじゃありません。僕たち大人が生きている世界は、実はとても楽しいし、刺激に満ちた世界なんですよ。そんなことを、まわりの大人は子ども達に伝えるべきなんじゃないかな。そんなことが、学校教育を通じてできれば最高ですよね。

後輩に一言お願いします

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年をとるにつれ、人生はだんだんと忙しくなっていきます。大人になれば、父親、夫、経営者、従業員、地域住民、専門家など、色々な役割を果たさなければならなくなりますから、自分の自由になる時間なんて本当に少ない。でも、学生時代は誰にも迷惑をかけずに自分の好きなことに没頭できる貴重な時期です。是非、自分のやりたいことに思い切り没頭してください。そして、色々なことに感動して下さい。

私は高校時代には平日は小説を読み、週末になると東京中の名画座に電車で行って映画を見ていました。いまのようにレンタルビデオがあるわけではありませんから、好きな映画を見るためには上映している映画館を探して足を運ぶしかかなったんです。大好きな『ブレードランナー』は何度見に行ったかしれませんし、「人間の條件」という全編10時間の大長編映画を、私はオールナイトで一気に見た時には、鳥肌がたつほど感動しました。学生時代は、感受性の強い時期ですから、人格形成のために必要な音楽や物語になるべく多く触れて欲しいと思います。食べたものがあなたの体になるように、見聞きしたものがあなたの心を磨き、あなた自身を作ると思います。すばらしい中学・高校時代を佼成学園で過ごしていただきたいと思います。

取材者後述

2008年真夏の盛り。友人の紹介で、近藤先輩と初めてお会いしました。表参道の居酒屋でビール片手に冗談話に花が咲き、2軒はしご。楽しい時間を過ごしましたが、その後接点はありませんでした。数年後、Facebookで友人として繋がり、プロフィール欄の「佼成学園卒業」の文字を見てビックリです。その時以来、親近感が沸き今回の同窓会のインタビューに繋がりました。お忙しい中お時間を下さった近藤先輩に感謝です。どうも有り難うございました! 高橋政行

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